第8章 赴湯蹈火 【煉獄杏寿郎】3 完
「煉獄。最初から撃つ気なんざ無かったぜ。別に怒っちゃいねぇよ。俺は他にも3人妻がいるしな。10年経ったら怒りも冷めた。愛してしまったもんは仕方ねぇ。千からも事情は聞いた。きっと俺でもそうする。」
「宇髄。撃つ気が無いのは分かっていた。それには弾すら入っていないんだろう?・・・君は怒りが収まるのを待って来てくれたんだな。」
「さぁな」と言いながら宇髄は続ける。
「これは大事な売りもんだからな。お前を撃っても得は無ぇ。・・俺も愛した女がどんな顔で暮らしてるか見に来ただけだ。・・幸せそうで何よりだ。」
宇髄はあやの方へ行き、「優しい顔になったな。俺には見せてくれなかった顔だ。」と顔を覗き込んで頭を撫でる。
「それよりもお前らがいねぇと寂しいからよ。5年経ったら本当に帰って来い。なぁ千。」
「兄上。お会いできてよかった。父上も母上も待ってらっしゃいますよ。」
千寿郎は「母からです。」と、東京から持って来た手紙や荷物を杏寿郎に渡す。
「千。我儘な兄で申し訳ないな。父や母にも馬鹿息子で申し訳ないと伝えておいてくれ。」
「煉獄。今回はあの金を返しに来た。金でチャラにはしてやらねぇ。お前に貸しを作ったからな。」
「あぁ。宇髄。恩に着る。君に何かあったらいつでも助けに行く。呼んでくれ。と、いっても、今は肩書も何もない。熊くらいしか取れんがな。」
「・・じゃあな。俺の息子を頼んだぜ。またな。熊はいらねぇよ。」
「わははは。そうか。残念だ。気を付けて帰ってくれ。」
ちらちらと舞っていた雪が少しずつ牡丹雪に変わっていき、辺りを白く変えていく。厚い雪雲が山を覆う。このあたりの地域では珍しく雪が積もりそうだ。
五年後、2人は逃げ出したけじめを付けに東京に戻る。
出て行って15年も経つと世代も変わり、時代も変わった。
思っていたよりも周りの皆は暖かく迎えてくれた。
杏寿郎は宇髄への借りを返すべく、今度は一緒に海外の貿易を手伝うらしい。
🔥 赴湯蹈火 完