第8章 赴湯蹈火 【煉獄杏寿郎】3 完
「腕なんていらねぇよ。・・・お前が死ねば、あやをつれて戻れるからな。」
あやも千寿郎も固唾をのんで見守った。あやは胸の前に手を持っていき、そっと懐の刀に触れ、宇髄と千寿郎との距離を測る。
「あや。それで俺を切るか?」
宇髄はあやの動きに気づき、ちらと見て言う。
「いいえ。あなたには恩しかありません。斬るべきは不義理を働いた自分です。私も主人もあなたが来たらあなたの思うようにしてもらうつもりでした。」
懐にある刀の柄に指を掛け、静かに話す。
「そういうことだ。俺はそれなりの事をした。いいぞ宇髄。覚悟はできてる。」
宇髄は銃を向けたまま黙って聞いていた。
その時、裏山からキャッキャッと子供の笑う声が聞こえた。宇髄は咄嗟に銃を下ろし、「只今戻りました!」と声のする方を見る。
10歳位の銀の髪の男の子とそれより少し小さい金の髪の男の子。手には籠一杯の山菜と果物。
その姿を見て、宇髄の動きが止まる。
子供たちの方もただならぬ空気を感じ、籠を落として身構える。銀髪の少年は金髪の少年の前に守るように立ち、紫の瞳でじっと客人の動きを見ている。
「おい。坊主。名前は?」
「・・天満。」
「おい・・・煉獄。」
「宇髄、分かるだろう?君の子だ。あやのお腹には子どもがいた。その子にも父親は俺ではなく、東京に立派な父がいるときちんと教えてある。・・名前は勝手につけてしまったがな。幼い時から君のように聡い子だ。」
宇髄は大きく溜息をついて静かに銃を袖に仕舞う。持って来た荷物から風呂敷包みを取り出し、天満に渡す。
宇髄は天満の前にしゃがみ、視線を合わせて優しい声で語りかける。
「天満。これは俺がお前の母の心を買おうと思って払った金だ。母の心は買えなかった上に、煉獄が返してきたがな。江戸の男は出した金をまた引っ込めるなんざみっともねぇことはしねぇ。お前にやる。この金でお前と弟・・・。」
「桃寿郎」
「・・桃寿郎は沢山勉強をしろ。学問も、世の中の事も。金が増やせるようになったら大したもんだ。5年経ったら迎えに来る。東京で俺の仕事を手伝え。役に立てよ。・・・5年のうちに頭の固ぇ父ちゃんと母ちゃんも東京に戻るように説得しとけ。」
「・・わかった。」
宇髄は天満の頭と桃寿郎の頭を撫でて立ち上がり、杏寿郎の方へ向く。