第6章 ※赴湯蹈火 【煉獄杏寿郎】1
気を取り直し、天元の待つ座敷へ行くと、・・・なぜか座敷にいる。
・・・煉獄杏寿郎。
天元と知り合いなのだろうか。親し気に話している。
相変わらずの溌溂とした喋り方。「わははは」と豪快に笑いながら芸妓の芸を楽しみ、宴の肴や酒を楽しんでいる。
また私の名前を呼ばないか冷や冷やしていたが、初めて会うような態度だった。賢明だ。遊女と幼馴染など言ったところで何の得もない。
不自然ではない様に最初に一度だけ「いろ葉です。」と自己紹介とお酌をしに行くと、「煉獄杏寿郎と申す!」と眩しい笑顔で返してきた。
あとは連れて来た新造に任せて、私は天元の陰に隠れるように座る。杏寿郎の声や話し方を懐かしく思うが、視線も送らない。
「宇髄。それでは失礼するぞ。美しい女性達で目の保養になった。」
「おい、煉獄、折角来たんだ、見世で気に入った妓を選んで遊んで帰れよ。奢るぜ。」
「いや。今日はやめておこう。では、またな。」
暫くすると、杏寿郎はさっさと帰ってしまった。帰り際、はたと目が合ったが、お互いすぐに逸らし、顔には出さない。
天元から杏寿郎はとても仲が良い悪友であると聞かされる。
杏寿郎はこのあたりの大名家の跡取り息子で、そろそろ身を固めるようにと、多くの縁談が持ちかけられており、遊郭で女の扱いを習う様にと誘ったそうだ。
「その手の事に関しちゃ真面目過ぎる奴でな。女の肌でも知りゃもちっと面白みが増すだろうに。」
と天元が言うのを「天元様ほど女の肌を知っている方はいませんからね。」と返すと「ヤキモチか?」と嬉しそうにする。
その後も、聞きたくもない杏寿郎の話がしばらく続いた。興味がある素振りで話を聞くと、それはそれで天元は夜なかなか離してくれなくなるので、「そう」と素っ気ない返答をする。
杏寿郎は、私が遊女になったことを知って、今夜宇髄に抱かれることをどう思って帰っただろうか。