第6章 ※赴湯蹈火 【煉獄杏寿郎】1
また朝が来た。目を開けると見慣れた天井があり少し絶望する。
寝る前にこのまま目が覚めないでと思って眠るのに。
私の思いはいつも叶わない。
夜は提灯の明かりで幻想的な弁柄の朱が、朝はとても品が無く見えてうんざりする。
隣に寝ている客をそろそろ起こさないと。
そっと体に腕を回し、少しだけ力を込めるとこの人は起きてくれる。
「・・よぉ。もう朝か。」
「さっき解放してくださったばかりなのにね。」
「お前はいくら抱いても抱き足らねぇよ。」
「ふふふ。わたしは天元様ともっとよく眠りたい。」
小首を傾げて顔を覗き込みながら可愛らしく言う。
すり、と私の肩を撫でながら隣の男の紫の瞳が優しく光る。
「・・いろ葉。も、ちょっと待っててくれ。身請けしてぐっすり眠れるようにするからよ。」
「天元様。嬉しい。」
少し恥ずかしそうに俯いて微笑んで見せる。この人はこの顔をすると喜ぶ。
「お前は可愛いな。帰りたくねぇよ。」
「・・また会いに来て。」
手を繋いで大門まで行き、つないだ手に少し力を込めて囁くように言ってから、微笑んで小さく手を振る。
昨夜の相手、宇髄天元は少し前に馴染みになった客だ。
なんでも武器の買い付けと販売を主にしている大商人らしい。お金払いも良く、遊び方も綺麗で性格は優しい。そして何より顔が端正だ。豪気で情も深いので、すでに抱える妾は3人を数えるのも頷ける。
そして本気か冗談か私も身請けしようとしているのだからその羽振りの良さに少し呆れてしまう。
・・閨が少ししつこいので体が疲れてしまうのが難点だ。愛されている内が花だが。
店の前で下男と話をしていたお楼主さんに「ご苦労さん。」と言われ、「ふぅ」とため息で答える。
さて、部屋に戻ってもう少し眠ろう。