第5章 ※燎原之火 【煉獄杏寿郎】3 完
3年後の5月
また俺は高校3年生の担任になった。そしてまた3年前と同じ教室。
あれからあやとは何回かメッセージのやり取りをして会おうという話になったが、結局はお互いの都合が合わず、疎遠になっていた。予想通り、社会人と大学生は生活時間が違った。仕方のないことだ。
3年前は学校のあちこちにあるあやとの思い出に触れるたびに切なくなっていたが、時が経つごとに少しずつ幸せだったという感情に変わってきている。
新学期の忙しさが少し落ち着き、夏の香りがし始めた教室で俺は客を待っていた。
コンコンとドアをノックする音。
音の方を見る
入り口に立ってこちらを見る女性は、満面の笑みで俺に挨拶をした。
「煉獄先生。お久しぶりです。来週から教育実習でお世話になる紫天城あやです。」
「元気そうだな。随分良い顔になったじゃないか。」
もうふわふわと頼りなく喋るあやではなく、凛とした佇まいのあやがいた。
「先生。先生に言われてあれから私、大学で一杯頑張った。たくさんの人に会って、いろんなことをたくさん勉強した。バイトだって色々した。」
「そうか。」
「でも、煉獄先生。頑張って探したんだけど、先生ほど好きになれる人はどこにもいなかった。」
あやは少し目に涙を溜めて笑っている。
「あぁ。俺もだ。あれから、君ほど好きになれる人はいなかった。」
俺の目も赤いだろうが仕方が無い。
「・・・もう私、生徒じゃないから、先生を困らせない?」
「あぁ。君ももうすぐ先生と呼ばれるからな。気兼ねは無いな。堂々と外でデートできるぞ。」
「れんごくせんせい。会いたかった!」
あやが俺の胸に飛び込んで来た。それを抱きとめて顔を見る。
「あや、そうやって、甘えた様にひらがなで俺の名を呼ぶな。・・俺も会いたかった。」
「先生。お茶を・・飲みませんか?」
「前に一回だけだと言ったはずだぞ。」
俺はわざと困った顔をして、笑っているあやにちゅっとキスをした。
あやは、今年で大学の単位をほとんど取り終え、来年からはあのマンションに戻って来て、必要な時だけ大学に通うらしい。
・・そうなると、また俺はあのマンションにあやを迎えに行くことになりそうだ。
🔥 燎原之火 完