第24章 ※陽炎【煉獄杏寿郎】2完
あやは自分の髪を結っていた薄桃色の紐を解くと、煉獄の右の手首に巻いて蝶結びにした。
そして骨折していた煉獄の小指に口づけをする。もう小指の腫れはすっかり引いていた。
あやが煉獄の肩を少し押したので、煉獄は上体を起こして座った。手首を見ながらあやに問う。
「くれるのか?」
あやは少し首を傾げて、煉獄の寝ていた枕元から金の髪を結う赤い紐を取って、煉獄の手に持たせると自分の手首を出す。
「交換か?」
あやは微笑みながらこくりと頷く。煉獄も同じようにその紐を手首に蝶結びにした。それを見てあやは微笑むと、煉獄の頬にその手を添えて、触れるだけの口づけをした。
そっと体を離して立ち上がると、縁側に繋がる障子を開けた。腕だけ通してある浴衣を脱ぐ。裸になったあやの背中や腰の辺りは赤い痣で殆ど覆れていた。痣の濃淡で満開の花の中にいるように見えた。
あやはそのまま縁側に出て、煉獄を振り返って微笑む。煉獄は慌てて「あや!」と名を呼んだが、あやはもう振り返ることなく縁側からトンと地面に飛び降りると、とんとんとんと数歩行ったところでふっと夜の闇に紛れた。
そしてその入れ違いに宇髄が庭に下り立つ。
「煉獄、すまねぇ。見張ってたんだが、あやが急に消えた。」
そう言いながら、煉獄が浴衣の前をはだけさせたまま敷布の上で座っていることや、乱れた布団を見て眉根を寄せて苦い顔をした。
「・・こっちへ来てたか。面目無ぇ。」
「いや、宇髄。巻き込んですまなかった。・・まぁ・・この有様だ。」
「・・・・あやは?」
「何度か目合った後消えた。」
「・・体は大丈夫かよ?」
煉獄は口を尖らせて斜め上を向いて肩やわき腹を触りながら少し考える。そして宇髄を見た。
「・・・怪我は治っている。それに、あちこちの違和感がすべて消えた。」
「はぁ?」
煉獄は乱れた浴衣を着なおして、庭にいる宇髄の前に立つ。もう一度確かめる様に肩や腰を回した。
「・・・物の怪なんて言うと罰が当たりそうだ。精もずいぶん吸い取られたが、それ以外の物も吸い取ってくれた様だ。」
煉獄は掌を開いたり閉じたりしながら眉尻を下げて笑った。