第24章 ※陽炎【煉獄杏寿郎】2完
その夜、煉獄はなかなか寝付けずにいた。久しぶりの一人寝で遠慮なく手足を伸ばして寛げるのだが、浅い眠りばかりで寝入ることができない。それだけでなく、今頃になって肩やあばら、腎に鈍痛がでてきて、何度も寝返りを打ちながらそれに耐えていた。
ふと障子の開く音がした。
「千か?」
「・・・・」
返事がない。弟の千寿郎ではないことはまぁ分かっていたが、そうであって欲しいと思って声を掛けた。誰が訪ねて来ているのか煉獄には心当たりはある。物の怪ならばそう簡単に物事は運ばないだろうとは思っていた。
仕方なしに痛む体を仰向けにして障子の方へ顔を向ける。予想通りあやがそこにいた。瞳には涙が溜まっており、煉獄と目が合うと傍へ寄って来た。
おそらく彼女は人ではないと分かっていても、不思議とそこに畏怖の念は無い。
それどころか、艶やかな黒い瞳を涙で潤ませたあやを見ると、可愛いとさえ感じる自分は随分と絆されてしまったと煉獄は思う。そしてつい優しく声をかけてしまう。
「どうした?戻って来たのか?」
あやはこくと頷くと煉獄の布団に入って隣に寝転んだ。煉獄の浴衣の中に手を滑り込ませて肩とあばらに掌を付けた。
すうっと痛みが遠のいた。
煉獄はあやの方を見て微笑む。
「俺が痛がっているのが分かったのか?」
あやはまたこくと頷く。ぎゅっと体を寄せてきた。体温も痛みもあやの方へゆっくりと流れていくのを煉獄は急にぼんやりとしてきた頭で感じていた。ひどく心地よくなって、眠気が出て来た。
そしてふと頭に一つの考えがよぎる。もしかしたらこれは、痛みを取ってもらっているというよりも命を吸い取られているのかも知れん。と。
ならば眠るのは良くないだろうとなんとか目を開いてあやを見た。あやと離れてまだ数刻しか過ぎていないのにまた少し成長している様だった。もう自分と同じ18歳くらいに見えた。
これはやはりまずいぞと感じて視線を少し外して部屋の中に漂わせた。何か逃れる方法はないかと次は外に視線を向けた。少しだけ開けていた縁側に繋がる障子の隙間に要が見えた。要は小さな黒い瞳を輝かせながら煉獄の命令を待っている。『宇髄を呼べ』と目配せをしたら察したのか飛び立った。