第23章 ※陽炎【煉獄杏寿郎】1
宇髄は飲んでいたお茶をブッと盛大に噴き出した。ゲホゲホとむせたあと頭を抱えて大きく溜息をついた。それを見て煉獄は頭を下げる。
「すまん。」
「いや、色々言いたいことはあるが、ちょっと下世話な事を聞いていいか?」
「何だ?」
「子種はどうした?」
「・・膣内に出した。」
「・・・はぁ・・そりゃなんか物の怪の類じゃねぇの?御伽草子とかで出てくる精を吸い取るってやつ。」
「う~む。俺の知っている話だと結末は良くないぞ?」
「あぁ、御伽草子じゃ、魅入られた奴は精を吸いつくされて死ぬ。」
「それは困るな。ではどうしたらいいんだ?」
「いや、俺も詳しくはねぇが、寺でお経をあげてもらったり、お札かなんかを貼ったりか?」
「ふむ。成程。」
「まぁ、取り敢えず今夜はあやを俺の家に連れて行く。俺と嫁で見張っておくからよ。お前はゆっくり眠れ。」
「そうか。それは有難い。頼めるか?」
「あぁ。一晩様子を見ておく。」
そうと決まればと煉獄はあやを呼んだ。
「あや、今夜は俺に用ができた。宇髄の家で過ごして欲しい。明朝には迎えに行く。」
あやはふるふると首を横に振る。煉獄はあやの両手を取って優しく語りかけた。
「あや、頼む。聞き分けてくれ。」
あやは大きな瞳から涙をポロポロと零しながら、首を横に振った。その涙を手で拭ってやりながら煉獄はもう一度優しい声で言う。
「あや、明朝必ず迎えに行くから。」
あやは煉獄の瞳をじっと見つめると、煉獄の頬に手を伸ばした。頬を両手で包み込むと、自分の方へ顔を引き寄せる。そして唇を重ねようと顔を近づけた所で「そこまでだ。」と一部始終を見ていた宇髄に肩を掴まれて止められる。あやは大きな瞳に涙の膜を貼り、眉尻を下げて宇髄を見た。下唇をきゅっと噛んで。観念したのか手を宇髄に差し出す。宇髄はその手を取らず、手首を掴んで立たせると抱き上げた。
あやは宇髄に抱えられて屋敷の外へ連れ出されながら何度も杏寿郎の方を見た。杏寿郎の方もあまりにも悲しそうな顔をするあやに胸が痛んだが、その感情を持つこと自体がとても不可解でやはり物の怪だったのかと妙に納得してしまった。