第21章 炎虎 【煉獄杏寿郎】4
あやが無事でよかった。
あんなに怖い思いをしたのに、まだ俺の傍にいてくれると言う。
・・・・確かに、良く知らない土地に連れて行って、不安な思いをさせるよりも一緒にいた方が俺も安心できる。
・・実際、遠いからといって安心とは限らない。俺達の暗黙の了解として家族には手を出さないというのがあるが、敵は無視して家族ですら無いあやを狙った。
・・・千寿郎の所も警戒しないと。
あやの会社の同僚が帰宅途中に行方不明になったため、仲が良かったあやが今朝呼ばれたらしい。あやとも昨夜は連絡が付かず、さらにその界隈で俺の部下を含む三人が亡くなってしまったから、上司がかなり心配したんだと言う。
万が一に備えてと、スタンガンを護身用に持たされていて良かった。
・・・・とはいえ・・ほぼ素人とはいえ男二人に襲われて、あんなに冷静でいられるもんなのだろうか。後部座席の男達はガムテープでうまく固定され、身動きが取れなくなっていた上に、一人は顎が砕けていた。
空手も、護身術もこんなに実戦的な事を教えてくれるのだろうか。スタンガンの攻撃がかなり有効だったのだろうが、当てられた跡を見る限り、的確に狙いを定めているような場所だった。
俺を見つけて抱き付いてくるまで、おそらく泣いてもいなかった。
警備の基本的な事は男性職員などと一緒に教わったと言っていたが・・・。
度胸があるのは最初から知っていたことだが、これほどまでとは。
若干の気になることはあるが、傍に置いておけるならそれも少しずつ明らかになっていくだろう。
・・・最悪の事態を覚悟していたからか、あやが大きな怪我も無く無事であることにかなりホッとしている。
高橋は別の意味であやが無事でよかったと思ったそうだ。俺がバンの男たちを全て殺してしまうかもしれないと思った様で、後始末の手配もしてくれていたらしい。やはり優秀な男だ。
・・・俺は殺しも暴力も好きではない。・・・が、確かにあやに一生残るような傷でも付けていたら絶対無かったとは言えない。
・・・・う~ん。たった一人の女にこれほどまでに心が乱されるとは・・・俺には遂げるべき本懐があるんだが・・。
・・・・まぁ人を愛することは悪いことではないからな。