第3章 燎原之火 【煉獄杏寿郎】1
紫天城あやに出会ったのは、俺が初めて高校3年生を担任した24歳の時だった。
高校3年生といっても、前の年にも担任をしていた学年だったので見知った顔も多かった。
紫天城はその年に担任してやっと存在を知った控えめで大人しい子だった。初対面の印象も特に思い出せない位の。
俺は週末のある日、部活が午前中で終わったので、宇髄と待ち合わせをして去年卒業した甘露寺の個展を見に行った。その帰りに「何か飲もう」と、カフェのテラス席で人の往来を見ながら個展の感想やら仕事の事やらと、取り留めの無い話をしていた。
「おい、煉獄。ありゃ紫天城じゃねぇ?」
宇髄に促されて見ると、車道の向こう側に山のような荷物を持って歩いている彼女がいた。
「そういえば、先週引っ越しをしたと父親から連絡があった。」
「あいつん家、父ちゃん単身赴任でシンガポールで、母ちゃんは去年亡くなっちまって独り暮らしじゃなかったか?」
「あぁ、そうだ。確か、去年は君のクラスだったな。」
「お前、あいつに電話番号教えてあるか?一人暮らしだから、何か緊急なことがあった場合に駆け付けるのはお前だぜ。・・・お。あっちも気が付いた。」
紫天城が笑顔で手を振っているの見て、宇髄も手をヒラヒラさせて応える。
「個人的な電話番号をか?」
「・・去年は一度も連絡は無かった。余計な事はして来ねぇよ。良い子だぜ。・・・っていうか、あいつストーカーで困ってるって話だ。もし何かあったら後悔するのお前じゃねぇの?」
「そうか。」という言葉と同時に紫天城が、控えめに手を振りながら近くまで来て声を掛けてきた。
「宇髄先生、煉獄先生、こんにちは。」