第18章 炎虎 【煉獄杏寿郎】1
俺はあやを見送るとすぐに迎えの車に乗った。
・・・俺からのタクシー代を断った子は初めてだ。
ママから俺好みの清楚な感じの子が入ったと聞いてはいたが、あやは素直すぎてホステスには向いてない。
確かに綺麗な子で反応なんかはとってもかわいいんだが・・・。どうしてホステスをしようと思ったんだろうか。
・・・ママの見立て通り好みだったから適当に酔わせて抱いてしまおうと思っていたが、できなかった。
驚くほど・・・母にそっくりだった。
車は俺の組の事務所に向かう。
パソコンを開いてキーボードを叩いていた高橋が驚いた顔で戻って来た俺を見た。
「杏寿郎さん。今日はお戻りにならないと思っていました。・・・・まさか・・フラれたんですか?」
俺は少しばつが悪そうな顔をする。
「・・・いいや。高橋。意気地なしの俺を笑ってくれ。ホテルに誘えなかったんだ。」
高橋はそれを聞いてくっくっくと笑い始めた。
「はぁ。珍しいこともあるもんですね。あんなに楽しそうにいちゃいちゃしてたのに、なかなかガードが堅い女でしたか。」
俺は苦い顔をしてみせる。
「いや、違うんだ。あの子は本当に全くのシロウトだったんだ。俺がそれらしいアプローチをしてもきょとんとして良い雰囲気に持ち込めなかった。」
そこまで聞くと高橋は大爆笑し始めた。
「杏寿郎さん、近年稀に見る色男の顔してたのに、あの子には通用しなかったんですか?」
「・・・そうなんだ。高橋。・・・なかなか口説き甲斐のある子だろう?」
俺も高橋もひとしきり笑った後、俺は着替えるために奥の部屋に向かう。まだ笑っている高橋に視線を送る。
「・・・高橋。あやの事を少し調べてくれ。」
「・・・分かっています。ママから履歴書のデータは貰ってあります。」
俺は着替えながら、指の背にあやの頬に触れた時に付いたラメに気づく。
頬の白さと柔らかさが思い出されて自然と顔が綻んだ。
スーツのポケットに入れていたスマホを取り出すとあやからお礼のメッセージが来ていた。
「会いたいが我慢する。」と恋人に送るようなメッセージを送ってみると、「楽しみ」というスタンプだけが帰って来た。
オモシロい子だと思いながら高橋のいる部屋に戻る。