第1章 ※恵風和暢 【不死川実弥】1
「あや、この子は匡近から預かった・・・お前、名前は?」
「不死川実弥」
「実弥だそうだ。お前の弟弟子だ。面倒を見てやれ。」
「はい、承知しました。」
ある日、育手である師範が、銀髪で目つきが悪い少年を連れて来た。まだ幼さの残る顔立ちだったが、これまで苦労が多かったのだろう、顔や体には無数の傷がある上、拗ねたような、恥ずかしがっている様な不遜な態度で、ニコリともしない少年だった。
「実弥。初めまして。私は紫天城あや。16歳です。よろしく。」
あやは静かに実弥の前に立ち、視線を合わせ、実弥の藤色の目をじっと見ながら落ち着いた声で言う。そして握手を求め、そっと手を出す。
「あ?・・あァ。」
実弥は差し出された手に一瞬躊躇したが、渋々握る。姉弟子のあやの手は自分よりも一回り程小さく、柔い手。こんなんで鬼が殺せるのかよ。と思いながら握ったそれは、掌だけつぶれたマメのせいでゴワゴワと硬かった。
「実弥はいくつ?」
あやがにこっと笑って話しかけるのを、実弥は目も合わさずにプイっと顔を横に向け、答える。
「・・・14。」
あやは、横を向いた実弥の顔を両手で包み、もう一度あやの方へ向かせる。
「『14歳です。』・・実弥、敬語を使う。目は見て話す。」
あやは実弥にずいっと顔を近づけてまたじっと目を見つめる。実弥は予想していなかったあやの行動に動きを止めた。あやの顔をまじまじと見る。大きな灰色の瞳に、長い睫毛、小さ目の口に、すっと通った鼻筋。こいつ、綺麗な顔してんな。と思いながら、仕方なく素直に言われる通りにする。
「・・・14歳です。・・よろしくお願いします。」
素直に言うことを聞いた実弥にあやは笑顔を向ける。
「実弥、2歳も下だ。背、大きいね。私、偉そうに言ってるけど、弱いからね。実弥が強くなったら守ってね。」
「あやサン、・・・自分の身は自分で守ってクダサイ。」
何だこの女と思いながら、ふっと笑って答える。