第16章 天馬行空 【宇髄天元】 2
宇髄君が放課後に美術室に来る回数が減ったことで、何故か担任を交代してもらった国語の松本先生が引継ぎと称して準備室に遊びに来るようになった。
優しくて面白い人なのだが、…それだけ。
特に他の魅力を感じない。共通の話題も無いし、お互いに興味があることが違う。
性格もどう考えても合わないのだが、何故かポジティブで何度も来る。食事やデートにも誘われた。忙しいと言って誤魔化す。
なのに・・・今日もテスト前で部活が無くて暇なのか、来て嬉しそうに色々話してる。
何だか…チラチラこっちを見てくる。告白されそうな雰囲気。
え~?これまでの感じで勝算がある?
「紫天城先生。彼氏はいないんですか?」
「いないです。」
「先生、宇髄と付き合ってるんじゃないんですか?」
…ん?何で?そう見える?
「宇髄ですか?生徒ですよ?」
「何だか彼だけ特別扱いだし。可愛がっている感じなので。」
「私は、四月からずっと彼を理解しようと色々関わってきました。彼もそれに応えて懐いてくれたので、勿論可愛いです。でも…付き合うとかは…生徒ですよ?」
「…じゃあ、良かった。僕と付き合ってくれませんか?」
….ほらやっぱり。…当たり障りのない感じで返事をしなければ、明日からの仕事がやりづらい。
「…まだもう少し、お互いをよく知ってからがいいかなと思います。」
「あぁ…そうか~。僕の事嫌いですか?」
…何でそうなるの??嫌いになる程知らないし。
「嫌いではないです。私が仕事ばかりしていたからまだよく知らないだけで。」
「じゃあ、付き合ってから知ればよくないですか?」
良くないですよ、松本先生。『今、全くその気がないです』を遠回しに言ってるんだけど。面倒くさいなこの人。
コンコン
誰かが準備室のドアをノックした。助かったと思い、私はすぐに「はい」と返事をする。
「失礼します。」
ドアを開けて大きな生徒が入って来た。宇髄君だ。良い所に来た。私は慌てて宇髄君に話しかける。
「宇髄君、忘れもの?本借りに来た?」
宇髄君は一度私を見た後、松本先生の近くに行き、見下ろしながら言う。
「…松本センセ。俺、お邪魔?」
「…いいや。別に。では、紫天城先生。また。」
松本先生は何か言いたそうな顔で一度こちらを見て、準備室から出て行った。