第2章 bump into him
五条さんに会ったあの夜。
一人で住む部屋に戻った私は
「あ、あった……」
クローゼットの奥に押しやっていた、クマのぬいぐるみを取り出した。
「ごめんね、クマ吉。実家から着いて来てくれのに、こんな奥に入れっぱなしで……」
私はぬいぐるみに名前を付けていたのを思い出し、ギュッと抱き締めた。
私の手よりも少し大きなクマ吉は、いつも眠る時に抱き締めていた。
けど、彼氏がちょこちょこと出来だしては、ずっとクローゼットに入れっぱなしだったなぁ……
「また、一緒に寝ようね」
初めてクマ吉を手に入れた時、心が凄く温かくなった事も思い出した。
「五条さんのおかげだね。クマ吉のこと、思い出せたの。それもお礼、言わなきゃね」
クマ吉に話しかけても、もちろん返事はない。
ただそこに在るだけ。
でも、いつも話しかけてたなぁー。
「ふふ……」
懐かしくて温かい気持ち。
「明日も頑張ろうっ!でも、五条さんにはもう会えないんだろうなぁー。なんか、凄く変わったヒトだったよ?」
いつもより大きな一人言。
だけど、フラれた寂しさも腹立たしさも、ない。
スッキリした気持ちだった。