第15章 執念
聞き覚えのある声に、彼はゆっくりと目を開けた。
そこには、女の他に笠を被り羽織を着た侍のような風貌の男が2人立っていた。そのうちの1人が女が振り上げた薪を受け止めていた。
「なっ…なんだいあんたら!なんで…こんなところに…」
「何、俺達は名もねえ旅人さ。」
「この裏手に良い女が2人入っていくのが見えてね。覗いてみたら驚いたぜ、綺麗な女人が可愛い女を蹴ってると来たもんだ。」
「なっ!?この女が可愛い?侍の旦那、何を馬鹿なことを…」
「馬鹿なことしてるのはアンタだろ?こんな若い娘を殴る蹴るしやがって…」
と、突然低い声でつぶやいたと思ったら侍の男は掴んでいた薪を片手で粉砕してしまった。女はそれに驚き腰を抜かしていたようだった。
男が地面にへたり込む女に、また低くつぶやき小さな袋を投げ渡した。その袋からは銭の音が聞こえた。
「これもってさっさと失せな。」
「えっいいのかい旦那!!こんな女に金なんて…」
「何度も言わせるな、さっさと失せろ」
と、さっき以上に低い声で男が言うと女は袋を慌てて拾い少し彼を睨んで走って逃げて行った。
女が立ち去ったことを確認した男達は、ふぅ…と息を吐いてすぐさま彼の元へと駆け寄ってきた。
「若月!!大丈夫か?」
『…ぁ、な…七松…さん?…しお、え…さ』
彼は最初から分かっていたが、声をかけてきた男達は潮江文次郎と七松小平太だった。