第3章 オリジン
「…いってきます。」
兄の葬儀から一週間が過ぎ、
私は学校へ向かう。
まず職員室へ行き、先生に挨拶を済ませた。
教室に行くとクラスメイトが暖かく迎えてくれた。
みんな口々にいう。
「立派なヒーローだった。」
本当にそうだろうか、
確かに兄のおかげで救われた命がある。
でも私たち家族を悲しませたのに
「立派なヒーロー」なのだろうか。
兄を否定するつもりはないが
「立派なヒーロー」という言葉には違和感しかなかった。
久しぶりの登校だが、
その日の実践授業はすべて見学した。
登校してまず職員室に向かったのは
先生にとある相談をする為であった。
話しは昨夜に遡る。
「霞、ヒーローにならなきゃダメかな」
まだとても明るい空気とはまではいかないものの、少しずつ日常を取り戻しつつあった時であった。
父と母にダイニングテーブルに座るよう促され、母が苦しそうな顔付きで言った。
父も難しい顔をしている。
「…こんな事言って申し訳ないけど、お母さんね、怖いの。霞まで…失いたくないの。」
「父さんからも、頼む…。
親なのに子供に夢を諦めろなんて、残酷な親だと思う。でもな、それでも怖くて堪らない。
雄英を辞めろとは言わないが…編入を考えてくれないだろうか…」
頼む。と父は頭を下げた。
父と母の気持ちは痛いほどわかる。
私が親でも同じことを考えると思う。
そもそも、私がヒーローになりたかった理由って、なんだっけ…。
「少し、考えてみる…。
先生とも相談しないとだから…。」
絶対にヒーローになりたいんだ!と即答できない自分がいてその程度の夢だったのかもしれない。
それなら親の言うように、ヒーローになる夢は諦めた方がいいのかもしれない。
そして学校で先生と話して
結論を急がず、しばらく実践訓練は見学しよう。という運びになった。
クラスメイトが実践訓練をこなすのを見学していると、中途半端な自分に嫌気がさす。
やはり普通科への編入を希望しようか…
一日中そんなことを考えながら過ごした。