第34章 踏み出す一歩
「ヒーロー科のみんなは、自分の夢の為に今日まで必死に努力してきたんだもん。
心操くんに簡単に追い付かれてたらそれこそ、私や相澤先生やブラドキング先生は今まで何やってたんだってなるよ。」
「それは……
そうです、けど……。」
「心操くんが目指しているのは、ヒーロー科のみんなに追い付く事じゃないでしょう?
前にも言ったけど、他人と自分を比べても仕方がない。
昔とは違う自分を見せ付けるチャンスじゃない!」
「昔とは違う自分……」
「不安になったら、原点を思い出して。
自分がどうなりたいのか。」
心操くんは自分の両手のひらを見つめ、グッと力を込めて拳を作った。
「俺は、この個性を人の為に使いたい。」
真っ直ぐと、私の目を見て
そう呟いた。
その瞳にはもう迷いはなかった。
「うん。
なりたい自分だけ目指していればいいんだよ。
結果はちゃんと付いてくる。」
私はにっこりと心操くんに微笑んだ。
私たちの会話をすぐ隣で聞いていたエリちゃんもいつの間にかお絵描きの手を止めていた。
そして色鉛筆を置いて、自身の個性の発生源であるおでこの角を触った。
「……わたし、この個性のこと、そんなふうに考えたことなかった……。
いつも、こんな個性なければよかったって思ってる……。」
「エリちゃん……。」
「お兄さんは、すごいです。
……だから、えっと、
がんばってください。」
エリちゃんはその小さな両手を、心操くんに向かってグッと力を込めた。
心操くんは一瞬驚いた表情で
エリちゃんを見てからとても優しく微笑んだ。
「ありがとう。」
恥ずかしそうにそう呟いて、
右手を首に持っていった。