第13章 襲来
「……消太くん、今、少しいい?」
自分用に割り当てられた部屋に戻ろうとしたのか、寝袋から這い出ている消太くんを呼び止めて、仮眠室の中へ促す。
「どうした?」
心配そうに見つめてくれている。
ひざしくんにはサルミアッキと言ったが私からしたら消太くんはいちごミルク味の飴のように私に甘い。
「喝を入れてほしくて。」
「喝?」
「少し、弱気になっちゃってたから。
私が弱気になったら喝を入れるのが消太くんの仕事なんだって、ひざしくんが言ってた。」
「なんでだよ。
大体、喝を入れられる立場じゃねぇよ。」
消太くんは表情が暗いようにみえた。
きっと髪を整えろなんて建前なんだと思った。
兄が死んでから、再会して教師になってからも消太くんは弱気なことを言わなくなっていた。
教師としてもヒーローとしても
頼りない私だけど、少しでも支えてあげられたら……。
……そう思ったら身体が自然と動いた。
消太くんの方へ一歩踏み出し、そっと背中に手を回した。
細身なのに背中はゴツゴツしている。
きっとこの身体に沢山の辛い事を溜め込んできたんだろう。
「……消太くん。私がいるから。」
大丈夫だよ。と背中をポンポンと叩いた。
消太くんは一瞬固まったが私の言葉を聞いて、力強く抱きしめ返してくれた。
首元に顔を埋めている。
消太くんの吐息が首筋に当たってくすぐったい。
「……消太くん、苦しい…」
「我慢しろ。喝、入れてんだよ。」
しばらく黙って抱かれていた。
消太くんの清潔感漂う香りが鼻を掠める。
「俺はお前を置いて死なない。
だからお前も……死ぬな……。」
きっと敵の言っていた、お前はまた今度だという私を狙っているような発言が気になっているのだろう。
でも私は簡単に殺されてやるつもりはさらさらない。
だから、大丈夫。笑って伝える。
安心できるように。
「……わかってる。
私は大切な人たちを悲しませないよ。
私は消太くんを置いて、死なない。」
消太くんは一度力を緩め、
肩を掴んで私の顔を見つめた。
そして自身の唇をグッと噛み、もう一度きつく抱き締めてくれた。