第1章 case*1 リヴァイ·アッカーマン
夢の高校教師と喜んだのも数年前…遥か遠い昔のように感じる。
転任先がやっと決まり馴染んだ環境から離れる。
春休みの内に引っ越しを終え、明日からは新任として養護教諭を勤める。
そんな保健室の先生の物語。
物件にそこまでこだわりを持たない彼女はエントランスにオートロックの付いた至って普通のマンションを選んだ。
隣人への挨拶も滞りなく終わる予定が、左隣にある角部屋の住人とは顔を合わせる事がないまま新学期を迎えた。
転任初日は不測の事態も視野に入れ早めに出勤をする。
見慣れない町並みに駅に…通学路と校舎、勝手のわからない保健室。
急激な変化は大人にとっても辛いものだった。
入学式での新任の挨拶も無事に終わり保健室へと戻り鍵を開ける。
しかししっかりと閉めたはずの窓は開け放たれ、カーテンは風になびいている。
(…閉めた…よね…、確かに鍵も締めた…)
恐る恐る近づくカーテンを抑え窓を閉める。
(……初日にこれは嫌だなぁ…怖すぎる…)
不安を覚えつつ振り返ると、ベッドの上に座りを見ている人物が目に映る。
『……ひっ!!』
突如視界に入り込んだ人物に驚いて腰を抜かし床にへたり込んだ。
『な…なん…な…だ、誰、なんな…』
「新任よ、…落ち着け」
『ど、どうやって保健室に入ったの!窓も鍵も締めたはず…』
ベッドに座るのは制服を着ている事から男子生徒で、日本人離れした顔立ちをしている。
プラプラと揺れる手の指には小さな鍵が摘まれていた。
『…合鍵は職員室にあるはず…だけど』
「合鍵持ち出して作った」
『あぁ、なるほど!とはならないからね…鍵よこしなさい』
は男子生徒へ向け手の平を差し出した。
男子生徒は差し出された手を握ると裏返し手の甲をまじまじと見つめる。
「…綺麗な血管だな」
『…え?』
手や爪の形を褒められる事はあれど血管を褒められたのは初めてだった。
握られた手は気恥ずかしさに耐えきれず引っ込めた。
『あ…ありがとう?』
床にへたり込んだまま立ち上がらないに手を差し伸べる。
「…いつまでそこに座ってる」
『あ…あのね、腰が…』
の腰は絶賛抜けていた。