第4章 白い道【2】
丁度日の出の時刻。
毎朝カラはこの時刻に起き出して朝食の準備を始める。
『…まただ、』
彼女の見つめる先は明かりの灯った一つの部屋。
この船は基本的に朝は弱い者が多い。
ー1人を除いて。
『…ロー、今日も寝てないのかな。』
日の出の時刻に起きるカラも中々の早起きだが、それ以上に問題なのは頻繁に徹夜をするその船室の住民。
ーーーーこの時刻に船長室からは、2、3日に1度の頻度で明かりが灯っている。
それ即ち、ローがその頻度で徹夜をしていることを示しているのにカラは気づいていた。
『…あんな生活してたらいつまでも目の下の隈、なくならないよ…』
カラは昨日初めて診察をされてから、ローへの印象が大分変わった。
人を、特に医者である人間を信じることは今までのカラにとって不可能なことだった。
このアザを見て逃げ出さなかった医者は見たことがない。
知識のある医者だからこそ、その恐れは簡単に膨れ上がり、容易に殺意へと変わる。
だが、ローは違った。
まるで治療するのは当たり前、とでも言うように、このアザに触れることも厭わないし、薬を打つのも躊躇わない。
カラは昨日のことを思い出し、穏やかな表情を浮かべ、看板へ出た。
『…今日も綺麗。』
毎朝、カラは朝日を眺め、海に反射する道を見るのが日課となっていた。
彼女の育った地は1年中湿気に包まれ、日が差すことは殆どなかった。
しかし、ここは海の上。
いつでも東の水平線から伸びるその道は、決して曲がることはなく、どこにいてもこの時刻なら見ることができる。
カラはこの道を見ることで海にいること、生きていることを実感していた。
確かなこの道が自分を励ましていた。
『…さ、ご飯の用意しないと。』
カラは晴れやかな気持ちでキッチンへ向かった。