【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第4章 序の口
ドタバタと2階の廊下を走る音がする。
「遅刻!遅刻する!!沖矢さん!?」
階段を駆け下り、この声量からして
そよ香の体調は良くなったようだ。
「はい?僕はここですよ」
キッチンから廊下へ続くドアを開けると
そよ香が胸に飛び込んできた。
「わぁ!?…ぶっ」
「おやおや、これはおてんばなお嬢さんだ」
エプロンをかけた沖矢の胸に顔を打ったのか
そよ香の鼻先が少し赤い。
いや、赤いのは鼻だけではないようだ。
「し、仕事!仕事に行かなきゃ!」
「あぁ、それなら問題ありませんよ」
沖矢が言うには
そよ香のカバンに社員証とスマホが入っていたので
それで事務所に連絡し、
月曜から金曜まで有給休暇を消化することに
なったのだとか。
「う…ウソ…」
入社時、そよ香は先輩たちから
「所長は何があっても有休を使わせてくれない」
と耳にタコができるほど聞かされていたのだ。