【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第3章 人でなし
「あの、すみません」
自動ドア横にあるパネルに
カードキーをかざす女性に降谷は声をかける。
「スター・デリバリーの者ですが、
お客様がエントランスのインターフォンに
出ていただけなくて…
一緒に入らせてもらってもよろしいですか?」
梓から預かった紙袋を
あたかも客からの注文品かのように見せる。
「…あ、はい。どうぞ」
「ありがとうございます!助かりました!
この後も配達が混み合っていまして…」
ニコニコと愛想笑いでもしておけば
人の警戒心を解くことのできる顔で良かったと
こういう時は思う。
エレベーターで5階まで上がり、
そよ香の部屋の前で立ち止まる。
一応部屋のインターフォンを押してみるが
返事はない。
チラチラと防犯カメラを確認すると
廊下に2台。
(1分もあれば余裕だな)
ポケットからピッキング用の工具を取り出し
鍵穴に挿す。
ものの十数秒で開錠を知らせる音が鳴った。
「……」
玄関に入ると芳香剤だろうか
甘い桃の香りがする。