【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第10章 それぞれの陰謀
「騙してたの…」
「騙す?フフッ、人聞きの悪いことを言いますね…
それは君の方では?
君の前での僕は、あくまでも沖矢昴、ですよ…
下手な真似はしないほうが良い…
この家にいる限り、君の命は保障しよう。
琥珀色の姫君…」
離れていた顔が近づいてくる。
私はとっさに顔を横に向けた。
「いやっ…もうあなたと、キスなんてしない…」
「傷つきますね…
この前は素直に僕を受け入れてくれたのに…」
腰に回っていた腕がほんの少しだけ緩んだ。
とっさに沖矢さんの胸を押して身体を離す。
「あなた…一体何者なの…?」
「Need not to know…君が知る必要はありません」
人差し指を立てて口元にあてると
いつもの柔らかな笑顔を私に向けてきた。
目の前にいるのはどう見ても沖矢さんのはずなのに
どこか違う人の面影も見える。
私は怖くなって逃げるように書斎のドアまで駆け出した。
「そよ香さん、くれぐれも下手な真似は…」
「分かってます」
沖矢さんの話を遮って、
背を向けたまま返事をするとそのまま部屋に戻った。