【沖矢昴・安室透夢】 Madeira〜琥珀色の姫君〜
第10章 それぞれの陰謀
雨粒が騒がしくアスファルトを打つ。
夜の暗闇に紛れるようにして、1台のベンツが細い路地で停まった。
どこかから見ていたのだろうか、
車が停まると同時に燕尾服をまとった長身の男が
傘をもって現れる。
後部座席のドアを開け傘をさすと、
深紅のイブニングドレスのスリットから
白くなめらかな足が伸び、シルバーグリッターのピンヒールは
それを強調した。
女の肩が濡れないように、男は自分のジャケットを羽織らせる。
数歩歩いて古ぼけた木製のドアの前に立つと、
錆びついたドアノブを回した。
女が中に入るとジャケットを脱がす。
ぼやけたオレンジ色のライトの下でも、
彼女の白く瑞々しい肌は一気に客たちの目を引いた。
大胆に降ろされたオフショルダーに華奢な鎖骨からは
想像できないような豊満なバストは
神々しくも感じられた。
「お連れ様がお待ちです」
燕尾服の男は奥の部屋を一瞥するとそう言った。
コツコツとピンヒールの音を鳴らし、
ほどよくウェーブのかかったプラチナブロンドの髪は
光る余韻を残して消えていった。