第34章 束の間の休息(本家・信長と)
慶次と別れ、少しほっとしながら歩いていると、近くで声が聞こえた。
「貴様が、あの慶次と対等にやりあうとは。成長したらしいな。」
『信長さま!?』
ひなは小声で答える。
声のする方を見ると、本家・信長が松の木にもたれて佇んでいた。
回りをうかがい人気の無いことを確かめると小走りで近寄る。
『相変わらず所在が掴めない人ですよね、信長さまって。
心配してたんですよ。何処に行ってたんですか?』
尋ねると、本家・信長は不思議そうな顔をする。
「…なに ふざけたことを言っている?ずっと貴様の回りにいたではないか。
なんやかやと忙しいのか、全く俺に構わなかったのは貴様の方だ。」
少しムッとしながら本家・信長が言った。
『えっ!?信長さまこそ、なにを?何処にもいなかったじゃな…。』
いい掛けて言葉が途切れる。
(なに?信長さまの体が…。)
よく見ると、本家・信長が寄りかかっている松の木の樹皮が見えている。
本家・信長の体の向こうにあって、見えないはずの部分が、だ。
『す、透けてる…?』
目を見開いて呟くと、本家・信長も自分の体を見回した。
「そうだな。」
本家・信長がピクリと眉を寄せる。
『どうして…。』
(一体なにが起きてるの?)
「まぁ、単純に考えると消える前兆なのだろうな。
元から貴様以外には見えも聞こえもしなかったのだ。
同じ時代に信長は二人と要らん。貴様が信長として皆に認められる度に、多分、俺の存在は薄くなっていたのだろう。」
『そんな…!それじゃ、私が元いた時代に帰らないと、信長さまが完全に消えちゃう…ってことですか?』
「はっきりは解らんが、可能性のひとつだろうな。」
ひなは目眩を覚えた。