第33章 束の間の休息(慶次と)
調べものが終わり書庫を出たひなは、息抜きに城の中を散歩していた。
すると、威勢のよい掛け声が どこからか聞こえる。
『はっ!はっ!』
道場の方からのようだ。
ひなは、誘われるように道場へ向かう。
そこには、槍を教える慶次と、それを教わっている家臣達の姿があった。
(そういえば、槍部隊を作った、って言ってたな。)
『よーし、いいぞ!お前らだいぶさまになってきたじゃねぇか!』
元気な声で慶次が家臣達を励ましている。
家臣達も、それに答えるように槍をふるう。
その光景を道場の外から暫く眺めていると、慶次がそれに気付いて こちらへやってきた。
『信長さま!練習を見にいらしたんですか?』
『あー…うん、少し時間があったからね。元気な声に釣られちゃったよ。』
『ははっ!元気しか取り柄がありませんからね、俺は。』
慶次は自嘲気味に笑う。
『そんな事ないよ!慶次は いつだってみんなを守ってくれてる。
それに、みんな慶次のことを慕ってる。 』
慶次の肩越しに、休むことなく槍をふるう家臣達の姿を見る。
ひなの視線が逸れた途端、慶次は眉間に皺を寄せた。
『よーし、みんな、この辺で休憩だ!』
慶次が家臣達に声をかけると、皆の視線がこちらに集まる。
ひなの姿を見て取ると、慌てて膝ま付いた。
(えっ!?あ、そっか、信長さまが来たって思ってるんだもんね。)
『いいから顔をあげて。鍛練の邪魔をしてごめん。
みんな、あまり無理しないように頑張ってね。』
ははーっ!と更に家臣達が頭を下げる。
『へぇ~。信長さまが そんなにお優しい言葉を掛けて下さるとは。』
(えっ?)
普段とは違う冷ややかな声に、思わず慶次の顔を見上げる。
だが、既にいつもの陽気な顔に戻っていた。
『さぁ、少し休んだら稽古再開だ。俺は信長さまと話があるから、暫くお前らで鍛錬しててくれ。』
『はっ!』
家臣達は威勢よく返事をして、また各々 槍を振りだした。