第32章 束の間の休息休息(三成と)
『あぁ…、踏み台 壊しちゃったね。ごめん。』
(私の重みで壊しちゃうとか恥ずかし過ぎるんですけど!!)
ん?と踏み台を一瞥(いちべつ)すると、笑いながら三成が言う。
『ふふっ。信長さまのせいではありません。あれは足が一本、折れていたんです。
修理しようと思いながら、書庫に来るとついつい本を読んでしまって…。
なかなか手がつけられず、今日に至ったというわけです。
なので私が謝らなくては。申し訳ありませんでした。』
ペコリと三成が頭を下げる。
抱き締められたままなので、髪が頬を撫でて くすぐったい。
『踏み台は、次に信長さまがいらっしゃるまでに必ず修理しておきますから。』
そう言うと抱き締めた腕を解き、ひなが抱えている事典を取った。
『どうぞ こちらで お読みになられてください。』
さっきまで三成が読んでいた本の横に事典を置く。
『信長さまは勉強家でいらっしゃるんですね。』
『いやいや、それを言うなら三成くんの方でしょ!毎日 山のように本を読んでるもの。
今日は何を読んでたの?』
三成が開いていた本を覗き込む。…う、全然わからない。
『はい、兵法の本です。』
(兵法…敵と対戦する時の技術とか そういう教えのことだっけ?)
『先の戦でもそうですが、なかなか思い通りには参りません。
その先々の状況に応じて戦える知恵を得たいのです。』
戦術の話をする時は、やっぱり人が変わったように凛々しくなるなぁ、などと考える。
『頼りにしています。我が織田軍の頭脳ですから。』
『いえいえ、まだまだです。』
三成が頭を振るたびに、寝癖のついた後ろ髪が ふるふると揺れる。
『ふふっ、犬が尻尾振ってるみたい。可愛い。』
思わず笑みがこぼれた。
『はて、何が可愛いのですか?』
三成は不思議そうにひなを見つめ、
『失礼ながら、最近の信長さまより可愛いものなど思い付きません。』
と、首を捻る。
『えっ!』
(なんか今、さらっと可愛いって言われた気が…。)