第32章 束の間の休息休息(三成と)
翌日は特に急ぎの仕事も無く、ひなは のんびりと書簡に目を通していた。
(うーん…。この時代に少しは慣れたと思ってたけど、やっぱり言葉とか漢字は難しいや。)
解らない言葉や漢字があるとネットですぐに検索出来た現代とは程遠い。
今は、解らない単語や文字がある度に書庫に行って調べていて、もはや日課になりつつあった。
カラカラカラ…
そして、書庫の扉を開けると、文机の前で無心に本を読んでいる彼の姿も、もはや当たり前の光景だ。
(今日も真剣に本、読んでるな…。)
誰かが入ってきても気付かない三成に、初日こそ声を掛けたひなだったが、邪魔しては悪いと 今では静かに書庫に入る。
ゆっくりと書棚に目を通し、目的の事典を探す。
(ええっと…あ、あった!)
ところが、事典は思ったより高い書棚に並んでいて、ひなの身長では届きそうにない。
(困ったなぁ。)
辺りを見回すと、こういう時の為用なのか踏み台が置いてあるのに気付いた。
『あれなら届きそう。』
そっと踏み台を抱えて事典がある書棚の下に置いた。
『よっ!』
思った通り丁度 手が届きそうだ。
分厚い背表紙を持つと書棚から引っ張り出す。
その重みを感じた途端、踏み台からミシミシッ!と音がしてひなの体が傾いた。
『えっ…。』
(やばい、倒れる!)
思わず事典を抱え込んで目を瞑る。
ところが、いつまでたっても倒れた衝撃が来ない。
(あれ…?)
ゆっくり目を開けると、三成が背中から しっかりと抱き止めている。
『あぁ、危なかったですね。信長さま、お怪我ありませんか?』
ゆっくり振り向くと目の前に三成の笑顔があって、咄嗟に顔を背けた。
背けた先には、ぺしゃりとつぶれた踏み台がある。