第31章 束の間の休息(光秀と)
それが伝わったのか、光秀は薄く微笑んで否定した。
『信長さまを傷つけるような危険なことは致しません。ご安心を。』
『わ、解った。』
おずおずと光秀の後に着いて外に出る。
庭には、夜風に揺れる蝋燭と、水の入った桶があった。
(ん?この感じ、なんだか懐かしいような…。)
ひなが顎に手を当てて考えていると、光秀がガサゴソと何かを取り出した。
『信長さま、さぁ、どうぞ。』
(これ…。)
『花火?』
光秀が差し出した細長い「それ」は、ひなも現代でたくさん遊んだことのある花火だった。
『さすが信長さま、よくご存知で。』
『え?うん、昔、中国から来た使者が話していてね。どんな物か聞いたことがあるんだ。』
慌てて説明する。
『確か「線香花火」って言うんじゃなかったかな?』
ええ、と光秀が頷く。
『信長さまが、この暑さに参られていたようでしたので。
花火でもすれば気が紛れて、幾らか暑さも忘れられるのではと。』
いつもは何を考えてるのか解り辛い光秀だが、今はこの優しさに触れていたいと思った。
『ありがとう、光秀さん。こんな珍しいもの手に入れるの大変だったでしょ?』
笑みを浮かべたまま、光秀が蝋燭を側に寄せる。
ひなは、そっと線香花火の先で炎に触れた。
パチ…パチパチパチ…
静かに光の玉が弾け炎の花が咲く。
『綺麗…。』
(花火なんて久し振りだな。)
美しさに見とれていると、だんだんと火花の勢いは弱まり、やがてポトリと火の玉が落ちた。
『あー、終わっちゃった~。』
思わず呟く。
『まだありますので、ごゆっくりお楽しみ下さい。』
光秀が、ひなの手を取ると、燃え残った花火を新しい花火に変えた。
『それじゃ、光秀さんも一緒にやりましょう。』
『私も…ですか?』
光秀が意外そうな顔をする。
『だって光秀さんが用意してくれたんですから。ね。』