第31章 束の間の休息(光秀と)
『信長さま、お顔が赤いようですが、暑さにやられましたかな』
赤い顔で縁側に座るひなを、光秀が見て言った。
『えっ!?あ、あ~黙ってても暑いよね。』
ひながパタパタと掌で顔を扇ぐ。
(うわー、なんか私あきらかに わざとらしい!)
『まぁ、そうですね。』
光秀は特に気にする様子もない。
『ところで信長さま、この後のご予定は?』
『えっと…このあとは何組か謁見があるだけかな。』
『そうですか。それでは夕餉の後、少々お時間を頂いても?』
(夕餉の後?なんだろう。なにか内々の報告、とかかな。)
『うん、構わないよ。それじゃ、なるべく部屋にいるようにするね。』
『ありがとうございます。では、夜五つ頃には参ります。』
そう言って光秀はその場から立ち去った。
(えっと、確か暮れ六つが夕方の6時頃だから、夜五つってことは7時か8時頃だったよね?)
うんうん、と自分の記憶と会話をしながら、ひなも謁見の場へ向かった。
~~~ ~~~ ~~~
その後、何事もなく謁見を終え、ひなは夕餉も済ませた。
『はぁ、だいぶ謁見も1人でこなせるようになってきたな。』
最初は、秀吉が べったりくっついて何かと進言していたものの、最近は1人でも返答出来るようになっていた。
秀吉が寂しそうなのは気のせいだろうか。
『信長さま。』
そんな事を考えていると、襖の向こうから声がする。
『光秀さん?』
『はっ。』
どうぞ、と言うとススッと静かに襖が開き、低頭した光秀の姿が見えた。
『お待たせして申し訳ございません。暗い方が良いかと思いまして。』
(暗い方がいいってなんだろう?)
意味が解らずキョトンとしていると、光秀が外に出るように即す。
『あちらの庭に来て頂いてもよろしいでしょうか?』
『それはいいけど…どうしたの?庭になにかあるの?』
その顔からは真意の読めない光秀に、少し警戒してしまう。