第30章 束の間の休息(家康と)
『ありがとう家康。気に掛けてくれて。』
そう礼を言ったところで、まだ手を繋ぎっぱなしだったことに はたと気付く。
『あっ…こ、これじゃ西瓜食べられないよね!』
慌てて手を放そうとすると、家康が少しだけ力を入れて繋ぎ返した。
『小皿、真ん中に置けば食べられるでしょ。』
ゆっくりと縁側に腰掛ける家康に合わせて、ひなも座り込む。
そして二人の間に そっと小皿を置いた。
家康は、綺麗な三角形に切られた西瓜を1つ取ると「はい。」とひなの目の前に差し出した。
『ありが…とう。』
(えっとー…。いつまで手、繋いどくんだろ。)
家康の体温が、繋いだ指先から伝わってきて落ち着かない。
(私…今、顔 赤いかも。)
「シャクッ…」
小気味良い咀嚼音に、家康を見る。
『甘い…ですね。』
ひなも真っ赤な三角の頭に、かぷりと噛みつく。
『んっ、ホントだ、甘ーい!美味しい~!』
『あんたと…ひなと二人で食べてるからかも。』
『え?』
『なんでも…ないです。』
それだけ言うと、またシャクシャクと家康が西瓜を噛りだした。
ひなも黙って食べ続ける。
(本当は何て言ったか、ちゃんと聞こえてたんだけど…。)
『小皿、俺が持って行きます。』
そっと手を話すと、家康が立ち上がった。
(あ…。)
繋いだ手の温もりが消えて、少し物足りない気分になる。
それを知ってか知らずか、去り際に家康が言った。
『たまには二人だけってのも、いいものですね。』
その捨て台詞はズルい…そう思うひなたった。