• テキストサイズ

イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第30章 束の間の休息(家康と)


小皿を左手に持ち、右手で家康の手を握る。


『うわっ!ちょっと!』

家康を引き摺るように連れて歩く。

暫く歩くと、中庭が見える廊下にやってきた。

『お、ここで庭でも眺めながら食べようよ。』

笑顔でひなが振り返ると、むすっとした顔で家康が言った。


『信長さまって、意外と力、強いんですね。』


(あっ!無意識に家康を引っ張ってきちゃった)

『…ごめん。』

申し訳なさそうに謝ると、まだ繋いだままの手を見て家康が尋ねる。

『なんか、傷、増えてないですか?』

さっき切った指先を、まじまじと見つめている。

『まったく。せっかく治ったと思ってたのに。』

『こんなの掠り傷だよ。そういう家康だって…私を庇って怪我してたじゃない。

もう…平気なの?』


心配そうにひなが言う。

家康は顔をあげるとハッキリとした声で答えた。

『俺は男ですからね。何か刺さったり切れたりしても ある程度は大丈夫です。

でも、信長さまは女性なんですから、痕が残ったら困るでしょ。

だから、もっと気を付けてください。』


言葉はキツイけど、家康の声は優しく気遣ってくれているのが解る。

『…はい。以後、気を付けます。』

小さくなりながら、ひなが返事をする。

『あと、政宗さんが信長さまの事、幼名で呼びかけたような気がするんですけど。』

(あ、やっぱり聞こえてたんだ。)

『うん…。他の人が居ないときは、そっちの方が私も落ち着くっていうか、その…。』

(家康は こういうの嫌がるかもしれないな。)

そう思っていると、意外な返事が帰って来た。

『俺も呼んでいいですか?もちろん、政宗さんと同じく「他の人が居ないときは」ですけど。』

後半は、そっぽを向きながら だんだんと小さな声になっていく。

『えっ、家康も呼んでくれるの?』

ひなは嬉しさに顔を綻ばせた。

少しだけ見える家康の頬が赤い。

『ま、あんたも いくら当主だからって、女なのにずっと男名で呼ばれるのは嫌だろうから。』
/ 361ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp