第2章 私は信長
『大丈夫だよ、蘭丸。怪我もしてないし。』
(あれっ?なんで私、この子の名前…。)
『本当かどうか疑わしいものだな。信長さま、息災を祈っておりました。』
蘭丸をチラリと見やり、キツネ目の男が言った。
『光秀も、解り辛いけど心配してくれて、ありがとう。』
あれ??まただ…。
(なんで知らない顔なのに名前がスラスラ出てくるんだろう。
よく解らないけど今のうちに自分の部屋に行こう!)
それじゃ、と言うとひなは無意識にスタスタと歩きだす。
…ふと気付けば城の天守に来ていた。
『え、いつの間に。ここ、信長の部屋?』
真っ赤に塗られた柱が目に飛び込んでくる。
そっと障子を開けると…
(…内側の柱は金色なのね。)
信長さまは派手好きらしい。
部屋には既に床の準備がされ、隅には家康と三成が座っていた。
『えっと…お、お待たせ。』
2人は同時に深々と頭を下げる。
『お召し変え、お手伝い致します。』
スッと三成がひなの側に寄り、馴れた手つきで着物の紐をほどく。
抵抗する間もなく襦袢姿にされた。
(うわっ!)
着ていた貸り物の着物を、丁寧に衣桁(いこう/着物を掛けるハンガーのようなもの)に掛けている。
『どうぞ、横になって下さい。』
家康が即す。
こくん、と頷き床に横たわった。
家康はひなの手首を掴んで脈を取る。
『…いつもより脈が早いようですね。』
『あー、天守まで大急ぎで歩いて来たから…かな?』
慌てて答えるひなを大して気にも止めず、家康は「そうですか。」と言いながら熱を計ったり喉を見たり。
一通りの診察をした。
『少し足に火傷をされていますね。薬塗っておきます。その他は特に問題ありません。』
そう言いながら家康が着物の裾を捲る。
ピクッ!と動いたひなの足首に軟膏を塗った。
『ありがとう。もう大丈夫だから。』
ひながそう言うと、家康は軽く頭を下げて部屋から出ていった。