第26章 外柔内剛(がいじゅうないごう)/後編
(ここは元就目線にて進みます。)
… … …
くくっ、頭に花が咲いた近頃の貴様なら騙されるかもと思ったが、上手くいったぜ。
『さぁ、ここなら誰も来ねぇ。今度こそ差しで勝負つけようじゃねぇか。』
元就が、音もなく抜いた刀を構える。
ひなは俯いて何かを呟いていた。
『…せない。』
『あ?』
『許せないと言ったんです。』
そしてキッと顔をあげる。
『あんな小さな子供を、汚い大人の謀(はかりごと)に巻き込むなんて。
あなたは、そんなに心が卑しいんですか!?』
その時、元就の脳裏に幼い頃の記憶が甦った。
… … …
「元就、例え貧しくても、心まで卑しい人間になってはいけませんよ。」
… … …
『大方さま…。』
くそっ、やっぱり似てやがる。よりによって信長に、かよ。
舌打ちをして刀を構え直す。
この記憶ごと、切り捨ててしまえばいいだけのこと!
対するひなも、ゆっくりと帯の間から懐刀(ふところがたな)を抜いた。
こいつ…何処で俺達に出会うかも解らないのに、懐刀しか帯刀してなかったのか?
何処まで頭ぶっ壊れてんだ?
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『ただ、本能寺の変あとから、信長は何か様子がおかしいようです。
重臣である秀吉の名前を忘れていたり、普段話さないような口調で話したり。
大火の影響で意識が混濁しているようだと…。』
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蘭丸が言ってたことも、あながち嘘じゃねぇのかもな。
まあいいさ。今のまま死んだ方が貴様も幸せかもしれねぇ。
『今の貴様には片手で十分だな。』
元就が右手で刀を持ち振り下ろす。
キィィィーン!
金属のぶつかる音が燃え残る炎に吸い込まれる。
キーン!
『ちっ、全く手応えがねぇな。』
何度か軽く打ち込むものの、ひなは受け止めるのがやっとのようで一向に向かってこない。