第26章 外柔内剛(がいじゅうないごう)/後編
(目立つのはまずいよね。)
ひなは羽織を脱ぐと、懐刀だけを忍ばせて城を後にした。
… … …
『酷い…。』
城下町に着いたひなは、予想以上に燃え盛る炎に愕然としていた。
『うわぁぁぁん!おっかさーん!どこー!』
小さな男の子が1人泣いている。迷子かな。
ひなは側に寄り、しゃがんで視線を合わせる。
『坊や、名前は?どうして泣いてるの?』
『えぐっ…おれ、四郎。おっかさんから、火事だから先に逃げろって言われて俺だけ逃げたんだ。
戻ってみたら長屋が崩れてて…うわぁーん!』
(まさか、まだ中に?)
『大丈夫だよ四郎。ここで待ってて。』
こくん、と頷く男の子を残し、ひなは崩れた長屋の中へと入っていった。
『…うっ、ひっく、ごめんなさい、お殿様。』
ひなが長屋に入ったのを見届けて、物陰から海賊風の男が出てきた。
隣には喉元に刃物を突き付けられた女がいる。
『よーし、坊主。上手いぞ~!ほーら、約束通り おっかさんは返してやるよ。』
そう言うと、男は女を突きとぱした。
『おっかさん!』
『四郎!あぁ、お殿様…なんてことを…。』
泣き崩れる親子をよそに、男は、ひひひと下衆な笑いをこぼしながら消えていった。
『熱っ!』
焦げた柱を避け、ひなは なんとか通れる隙間を探す。
『誰かいますかー?』
返事はない。
(もしかしたら、もう逃げたのかも。)
そう思いながら更に奥へ進むと、人影が見えた。
(誰かいる!)
ひなは急いで近づきながら声をかける。
『大丈夫ですか?こちらからならまだ通れます…よ。』
近づいて気付く。その人影が、逃げ遅れた訳では無いことに。
『も…毛利…元就?』
(なんでこんな所に…。)
火事場でもよく目立つ銀髪を揺らして元就が振り返る。
『待ってたぜ、信長。なんでこんな所にいるんだって顔だな?
そりゃあ俺がお膳立てしてやったからさ。』
『お膳立て?なんのこと?』
『はっ、まだ解らねぇのか。さっきのガキは俺が仕組んだってことだ。
城から貴様が出てきたのを見てガキの母親をさらい、
「お殿様が来たら、てめぇの母親がいなくなったと泣いて訴えろ」ってな。
貴様が死ねば、自分がやった事の重大さに気付くだろうよ。』