第26章 外柔内剛(がいじゅうないごう)/後編
『くそっ!逃げ足の速ぇ野郎だぜ。』
慶次がひなに駆け寄って叫ぶ。
『信長さま、大丈夫ですか!?』
『…慶次の槍の方が危ないよっ!!』
(まったくもう!)
へへへっと笑う慶次を呆れた顔で見ながら、ふと城下に目線を移す。
『えっ…。』
城下町のあちこちで火の手があがっている。
(まさか…。)
同じ事を思ったのだろう。慶次と目が合う。
『城はいいから、家臣達を連れて火消しに回って!
あぁ、それと、怪我人がいたら城に連れてくるように。急いで!!』
『はっ!』
慶次がひなの言葉を受け走り去った。
(毛利元就…城の破壊では飽き足らず、安土の町にも火を放つなんて。)
ひなは、ぎりぎりと奥歯を噛んだ。
(あっ、そうだ、家康!)
急いで城の中へ戻る。
既に手当が終わり、胴と腕に包帯を巻かれた家康が広間に座っていた。
『家康!大丈夫!?』
駆け寄ると、
『信長さまの方こそ大丈夫ですか?元就に啖呵切ってたみたいですけど。』
いつもの無表情な家康に戻っていて、ほっとする。
『あれはー、ほら、何て言うか…成り行き?』
えへ、とひなが笑う。
『砲撃を止めようとしてくれたんでしょう?まったく、無茶にも程がある。
でも…ありがとう。』
うん、とひなは頷いた。
『でも、まだ終わりじゃないの。町にも火を放ってるみたいで…城に怪我人が運ばれて来ると思う。
こんな状態の家康に頼むのはお門違いかもしれないけど、力を貸して!』
ひなが頭を下げると、優しい声が帰って来た。
『当たり前でしょ。俺は織田軍の御殿医ですよ。
当主に命じられたら、這ってでも治療に行きます。』
『ありがとう、家康。助かる。』
ほっとした顔で告げる。
『それじゃ、私は城下の状況を見てくるね。』
『えっ!?そんな危ないこと…まだ元就が潜んでるかもしれないんですよ?』
『どんな状態か確認したら、すぐ戻るから心配しないで。
その間、城は家康と光秀さんに任せる。』
家康が小さくため息を落とす。
『あなたは言い出したら聞かないですからね。解りました。
でも本当に気を付けて。』
笑顔で頷くと、ひなは足早に広間を出る。