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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第25章 懸崖撒手(けんがいさっしゅ)/後編


… … …


暫く続いた銃声と怒号が止み、謙信軍が歓声を上げる。

元就の軍が敗走したらしい。


『なんとか、謀略には乗せられなかったようだな。』

謙信が言う。

ふと気付くと、ひなは腕の中で動かない。謙信が声をかける。


『おい!大丈夫か、信長。信長?』


軽く体を揺すってみても起きる気配がない。

『しっかりしろ、信長!貴様、第六天魔王なのだろう?こんなところで果てるな!信長!』


「…信長、信長と五月蝿い龍だな。」


どこからか現れた本家・信長が前に立ち、二人を見下ろしていた。


「…というか、こやつ、どんな所でもよく寝るな。」


本家・信長は、その場にしゃがみこむ。

そっと ひなの頬を撫で視線だけを謙信に向ける。

「越後の龍よ、こやつを守ってくれたこと礼を言う。」


「『こやつの名を呼べ。…ひな、と。』」

そう言うと本家・信長はまた何処かへ去った。


『…ん?』

謙信が、きょろきょろと辺りを見回す。

何かを考えるような素振りをしていたが、意を決したように口を開いた。

『…ひな。』


『ん…。』

ひなは もぞもぞと身を捩(よじ)らせる。そうして体を丸めると、ぴったりと謙信に体を寄せ…。

安心したように再び眠りについた。

『…。』


『信長さまー!』

政宗が信長を探しまわっている。

謙信軍と共闘して政宗達も戦っていたのだ。

謙信が、おもむろに立ち上がる。


『信長さまー!のぶ…信長さま!…貴様、上杉謙信か?』

政宗が腰の刀に手をかけると、謙信がそっとひなを地面に下ろし言った。

『しばし休戦し、まずは共に元就どもを倒す。信長とは既に話がついている。』

『なに?』

政宗が訝しげに眉をひそめる。

『俺達がぶつかるのは、その後だ。

それと…右手を怪我している。すぐに治療してやってくれ。』

そう言い残し、謙信は自軍の元へと戻っていった。


政宗は信長に駆け寄ると、布の巻かれた右手を確かめる。

『着物を裂いて巻いてあるのか。この柄…謙信の?

ま、そんなことはどうだっていい。一人で上杉軍との戦を止めるとは…。

本当に、とんだ大うつけだ。』

ぐっすり眠るひなを抱き上げ、政宗も静かにその場を後にした。
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