第25章 懸崖撒手(けんがいさっしゅ)/後編
『信長さま、出立の準備が出来ました。』
ひなが待つ三成の陣に政宗が顔を出す。
『うん、解った。』
すくっとひなが立ち上がり、政宗と共に天幕を出ていく。
外には30人程の騎馬隊が整然と並んで待っていた。
『数が多ければ謙信軍に会う前に元就の手の者に気付かれてしまいます。
…申し訳ありませんが、早駆けで向かうのは この数が限界かと。』
膝まづいて告げる政宗にひなが微笑む。
『大丈夫だよ。今の私達は謙信軍を倒しに行くわけじゃない。
止めに行くの。この数で十分です。行きましょう!』
ひなが馬に股がる。と、騎馬隊も、それを囲むようにして動き出す。
政宗の馬が先頭に立ち、ひっそりと陣を立った。
その背に三成が静かに祈る。
『信長さま、ご武運を。』
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暗闇を切り裂くように、政宗達を乗せた馬が早駆けする。
(ううっ、なんで前も良く見えないのに、この人達こんなスピードで走れるの!?)
本家・信長の記憶のお陰で馬には乗れているひなだったが、
いきなりの早駆けはハードルが高い。
(前に政宗が居なかったら絶対 走れない!)
どのくらい走った頃だろう。
目の前に大きな川が見え、川の向こうに、目を凝らさないと解らないほどの小さな光が見えた。
(元就の軍!?)
『少し遠回りになりますが、迂回して川を越えます。』
政宗の言葉に頷くと更に騎馬隊がスピードを増した。
(はぁ、はぁ、はぁ…。し、死ぬ…。)
半時(はんとき=1時間)ほど全速力で馬を走らせた。
ふと前を見る。
『あの旗印…。』
毘沙門天「毘」の旗印が はためいている。
間に合った!
『政宗!』
前を走る政宗も、もちろん気付いている。
『さて、どうやって伝えるか、だが…。』
思案する政宗を余所に、ひなが飛び出した。
『なっ…おい、待てっ!いや、お待ち下さい…って、まどろっこしい、待ちやがれ!この、うつけ!』