第24章 外柔内剛(がいじゅうないごう)/前編
『っ、とにかく秀吉さん達に知らせを!』
『それなら俺が!俺が早馬を走らせます。』
蘭丸が一歩 前に出る。
『そうだね、蘭丸なら身軽だし馬も早く走る…。』
『いや。秀吉の元へは別の斥候を向かわせよう。』
言いかけたひなの言葉を光秀が遮った。
そしてチラと久兵衛に目配せする。久兵衛が頷くと、光秀は蘭丸の目の前に立った。
『お前には、ここに残って貰おう。聞きたいことが山のようにあるのでな。
…顕如の手先よ。』
(えっ?)
その途端、蘭丸の眼光が鋭くなる。
『おっと、逃げようなどと考えない方がいい。
別に俺は、お前を傷つけるつもりはないしな。今はまだ、だが。』
いつの間にか久兵衛が、挟むように蘭丸の背後に立っていた。
蘭丸がすり抜けようと身構えた時、顔を寄せて光秀が囁く。
『顕如の手先とはいえ、信長さまも大切なのだろう?
逃げればコレが信長さまの心の臓を貫くぞ。』
光秀は、蘭丸にだけ見えるように、胸元に隠して握った短銃を光らせた。
『どうして…!?』
蘭丸が目を見開く。
『どうして、か。お前には言われたくないが。
まあ、色々あってな。お互い、痛くもない腹を探られたくは無いだろう?』
そう言うと体を起こし、不適な笑みを浮かべて光秀が蘭丸を見下ろす。
『くそっ!』
観念したとでも言うように、蘭丸が肩を落とした。
『それでは、ひとまず俺の部屋に来て貰おうか。久兵衛!』
『はっ!』
久兵衛が蘭丸の腕を、後ろ手に縄で縛った。
『やめてください、光秀さん!』
ひなの声など聴こえていないと言わんばかりに、光秀は歩き出す。
『蘭丸!』
駆け寄ろうとするひなの腕を引いて家康が止めた。
『離して、家康!』
『いいえ、離しません。俺は信長さまを守る義務がある。
蘭丸が間者だと解った以上、あなたに近付けるわけにはいきません。』
可愛い顔をして、家康の力は思いのほか強かった。