第24章 外柔内剛(がいじゅうないごう)/前編
『光秀さま。』
それを遮るように庭から声がした。いつの間にか光秀の斥候、九兵衛が中庭に控えていたのだ。
『なにか掴んだのか?』
『はっ。しかし、ここでは…。』
チラリとひな達を見やる。
『解った。俺の部屋へ。』
二人は静かに その場を去る。
… … …
光秀の部屋にて。
『早速ですが、我が織田軍に間者が紛れ込んでいる事を突き止めました。
先の「本能寺の変」で、信長さまを暗殺しようとした顕如の手先にございます。』
『なんだと?そいつの名は?』
『その者の名は…。』
その時、外で大声で叫ぶ声が聞こえた。
『誰か武将は いねぇのかっ!!』
『なんだ?騒がしい。この声、慶次か?』
光秀が襖を開けて外に出ると、鬼の形相で慶次が廊下を歩いていた。
『何事だ、慶次。』
『光秀!大変だ、元就の野郎、また大砲ぶちこむ気だ!』
『なに?』
『商館にいる元就の手下、脅して聞いたから間違いねぇ。
あいつ、大阪の港に でけぇ南蛮船を停泊させてやがるんだが、
積み荷の砂糖や絹織物に紛れさせて、まだ何門も大砲を隠してる。
そのうち、三門を今日、秘密裏に移動させたそうだ。』
慶次が一息に言い捨てた。
『何処にだ?』
『ひとつは、ここ近江。残りふたつは…美濃だ。』
『なんだと?』
バタバタと廊下の向こうから複数の足音がする。
『どうしたの!?なんか大きな声が聞こえたけど…って、慶次?
慶次も帰って来てたんだ。』
騒ぎを聞き付けて、ひな達もやってきた。
光秀は簡単に事と次第を説明する。
『えっ…美濃って、秀吉さんたちが今、向かってる所なんじゃ…。』
驚いて言うと、慶次が呆れたように笑う。
『いやいや、そっちも大変ですが、また安土城がやられるかもしれないんですよ。
己の身はどうでもいいってか。…ま、信長さまらしいぜ。』
あ、そっか。ここにもまた砲撃が来るかもしれないんだ。