第24章 外柔内剛(がいじゅうないごう)/前編
私は…。
『城に残ります。』
唇を噛み、ひなが言った。
『悔しいけど、今の状態の私が戦に同行しても、きっと足を引っ張るだけだと思うので…。』
(馬にだって乗れないし、ましてや刀を持って戦うなんて考えられない。)
『もっともなご判断かと。』
ニヤリと口の端をあげて光秀が同意する。
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秀吉達の行軍を見送り、ひなは手持ち無沙汰で廊下を歩いていた。
家臣達は、城の守りに付くもの、怪我人が運ばれてきた時のため広間を整えるものなど、それぞれが忙しそうに働いている。
(うーん、城に残るとは言ったものの、私は何をすれば…。あ、家康だ。)
『家康!』
呼び止めると、その手には薬やら包帯やら、たくさんの物資を抱えていた。
『忙し…そうだね。何か手伝うこと、ない?』
おずおずと尋ねると、
『信長さまは、お暇そうですね。』
相変わらずの塩対応で返される。
ひなは、うっ、と言葉に詰まる。
『冗談です。今のところ俺の方は順調なので特に手伝って頂くようなことは…。』
しょぼん、という擬音が聞こえてきそうな ひなを見て、家康が吹き出す。
『フッ!』
(…私、なんかおかしいこと言ったかな?にしても家康が笑うのなんて珍しい。スマホがあれば激写するのに!)
『すみません。捨てられた子犬のようだったので、つい。』
すぐに真顔に戻ると、ひなの前に自分が抱えていた荷物を半分よこす。
『それじゃ、お言葉に甘えて。』
(半分持って、って意味だよね。)
『うん!』
嬉しそうに返事をして荷物を受け取る。
二人並んで廊下の角を曲がった時。
『…っ、信長さま!』
目の前に、久しぶりに見る姿があった。
『蘭丸!?』
ひなが駆け寄る。
『大きな戦が始まるかもしれないって噂で聞いて…。』
蘭丸はひなと目も合わせず、苦しげな表情で言った。