第23章 懸崖撒手(けんがいさっしゅ)/前編
『えぇっ!?どうして私達じゃなくて上杉、武田軍に?』
『考えられるのは、我等 織田軍が放ったと誤解させるため、でしょうか。
矢合わせもせず不意打ちで大砲を打ったとなれば、上杉、武田の軍も黙ってはいないでしょう。
そうなれば、話し合いでの交渉など もってのほか。血で血を洗うような戦いになるかもしれません。』
『なっ…!なんてことをっ。』
『そうなる前に我等が、上杉、武田の軍と落ち合い、元就の謀略を伝える必要があります。
間に合わなければ、そこにあるのは只、無駄な死のみ。』
(無駄な死なんて…。)
『無駄な死なんて無い!私が、そんな事させない。』
急いで甲冑を着ると陣の外に出て秀吉を探す。
『秀吉さん!』
『はっ、信長さま。』
『三成くんから事情は聞きました。私が、先にぶつかる武田軍に知らせに行きます。』
秀吉が目を見開く。
『なりません!武田信玄は信長さまの事を怨んでおります。
行けば火に油を注ぐようなもの!それだけはなりません!』
『…わかりました。では、武田信玄の元へは、秀吉さんが行ってください。
私は上杉謙信の元へ行きます。』
にっこり笑ってひなは言った。秀吉が目を見開いて呟く。
『くっ、謀りましたな!』
『元就じゃあるまいし、謀ったなんて人聞きの悪い。』
『解りました。しかし、さすがにお一人では向かわせられません。
政宗の隊と共にお行きください。』
『はい!』
笑顔のひなとは対照的に、肩を落とす秀吉の姿があった…。
(後半へ続く…。)
※懸崖撒手~勇気を出し思い切って物事を行うこと。