第23章 懸崖撒手(けんがいさっしゅ)/前編
… … …
草木も眠る丑三つ時。
交代で寝ずの番をしていた政宗の陣へ、見張り番の兵が息も絶え絶えに駆け込んで来た。
『と、殿は?伊達様は 何処におられるか!?』
『どうした!?政宗様ならば、奥におられる。しばし待て。政宗さま!』
表を守っていた兵が奥へと声をかける。
『なんだ、どうした?出立には まだ早いぞ。』
『まっ…政宗さま…。た、大変でございます…。』
見張り番の狼狽ぶりを見て、政宗もただ事ではないのを感じ取る。
『いいから、ゆっくり落ち着いて話せ。』
『ははっ!川向こうに何か光るものが見え、確かめに向かったのです。』
見張り番がゴクリと喉を鳴らす。
『あれは…大砲でございました!!』
『大砲だと?』
『ただの荷車かと思ったのですが丁度、風が吹いて荷物に掛けていた布をめくったのです!』
元就の軍か!?
ったく、こんな時に…。
いや、こんな時だから…か?
『ただ…不可解なのですが、その大砲、こちらを向いておりませんでした。』
ん?どういうことだ?
政宗が暫し考える。
『…まさか!おい、急いで秀吉と三成を叩き起こせ!』
… … …
『信長さま、信長さま、起きてください!』
(んー…、なに?もう陣を立つ時間なの?)
眠い目を擦りながらひなが辺りを見回す。
辺りはまだ真っ暗闇だか、兵達が慌てて支度をしている。
『三成くん?なにごと?』
寝惚けながらひなが尋ねると、三成が焦った顔で告げた。
『元就が先に仕掛けて来ました!』
(え、元就が?)
『こっそりと大砲を美濃へ運び、上杉、武田の軍めがけて砲撃するつもりです。』