第23章 懸崖撒手(けんがいさっしゅ)/前編
『今夜は限界だな。よし、ここらに陣を張るぞ!』
先頭を行く秀吉の合図で一旦 行軍が止まる。
『どうやら今夜は、この辺りに陣を張るようですね。』
三成が ひらりと馬から降りる。
続いてひなも馬から降りた。
(痛たたた…。)
いくら途中に休憩を入れていたといっても、さすがに何時間も馬の上はキツい。
(足が閉じれないよ…。)
「くくくっ!よもや女子の歩く姿では無いな。」
本家・信長は肩を震わせて笑っていた。ムッとしながらひなが睨む。
(まぁ、この人が後で支えてくれてたから、だいぶ楽だったんだけど。)
「俺は ここ一帯を見てくる。何かあれば…。」
本家・信長が ひなの耳元で囁く。
『心の中で叫びますから!』
『信長さま…夜中に独り言ですか?よろしければ、
どうぞ。』
政宗が暖かい味噌汁をひなに手渡す。
『あ、ありがとう、政宗。』
『本当に大丈夫なのか?』
不審そうに呟く政宗に気付かぬふりで、ごくごくと暖かい味噌汁を飲む。
胃が満たされると次にやってくるのは眠気…。
かくっ…かくっ…。
『信長さま?』
時間は子の刻(真夜中12時)。
隣で必死に眠気と戦っていたものの、とうとう負けてしまったらしく、三成にもたれてスヤスヤと寝息をたてている。
『ふふっ、さぞ お疲れになられたんでしょうね。』
三成は、起こさないように、そっと腕を上げ自らの羽織を脱いだ。
その腕でそっとひなの肩を引き寄せる。
羽織を二人の体に掛けて言った。
『お休みなさい、ひなさま…。』
はっ、と慌てて口を抑える。
『幼名で呼ぶのは失礼でしたね。しかし、この名の方が…あなたにはよく…似合う。』
そうして三成も目を閉じた。