第2章 私は信長
(…ん?
勘違いでなければ今、私に向かって「信長さま」って言ったような。)
暫くの沈黙のあと、ひなが口を開いた。
『あの…どちら様ですか?』
俯いていた男は、ゆっくりと顔を上げる。
ちょっとタレ目なその男は、眉間に皺を寄せている。
すると別の男もやってきて、また ひなの前で膝まづく。
『信長さま、寺の周りを確認して参りましたが、既に怪しい輩は逃走した後のようで…って、どうした?秀吉。』
(良かった。始まりが衝撃的過ぎて、そんなに驚いてないや。
このタレ目の人って、もしかして豊臣秀吉?
で、こっちの右目に黒い眼帯してる人は多分…。)
『あ?あぁ…政宗。信長さまは気が動転しておられるようだ。ひとまず城へ戻ろう。』
(やっぱり。伊達政宗だ。
というか、私、豊臣秀吉に気を遣われてる?)
『信長さま、今日のお召し物では馬を駆るのは厄介でござましょう。私がお連れ致します。』
秀吉が近くの木に繋いであった馬を連れてきて跨がった。
そして、ひなの腕を取り馬上に引っ張り上げる。
横向きに馬に乗ったひなを、後ろから抱き締めるように手綱を握る。
『ご無礼お許し下さい。』