第2章 私は信長
(こんな時は取り敢えず落ち着こう。
私がいるのは燃え盛る本能寺の前。
まだ熱いほっぺたを叩いても、つねっても変わらない。
これは事実。)
ひなは、おぼろ気な歴史の記憶を掘り起こす。
(本能寺の変って確か1582年だったよね。
私の学校では
「十五夜(じゅうごや)に起きてしまった本能寺の変」
って習ったな。)
手元を見るとバッグとスマホは、しっかりと握りしめている。
着ているものも、あの貸衣裳のままだ。
私だけが何故か別の時代に飛ばされたらしい。
『あ、佐助さん…。』
そういえば、あの時一緒に雷に打たれた呉服店の男の人は無事だろうか。
『… …さま!』
その時誰かの声がした。
『…長さま!信長さま!!』
声のする方を見ると、男が小走りでかけてくるのが見えた。
(信長さま?本能寺で信長さまと呼ぶってことは…織田信長!?)
キョロキョロと辺りを見回すが、ひなの他に人影は無い。
すると、その男が ひなの目の前で立ち止まり片膝を着き俯いた。
『信長さま、遅くなって申し訳ございません!』