第23章 懸崖撒手(けんがいさっしゅ)/前編
「難しく考えずとも よい。」
(信長さま!?)
「振り向くな。」
本家・信長の声が、ひなの真後ろから聞こえる。
(良かった!やっぱり いてくれると心強い。)
「貴様の言葉で、戦いに行く皆を鼓舞してやれ。」
(私の言葉で…。)
『…みんな、集まってくれて、ありがとう。
今から私達は武田信玄と上杉謙信の進軍を止めに向かいます。』
訥々(とつとつ)とひなが話し出す。
『出来れば話し合いで解決したいと思う。でも…。』
そこで言葉に詰まる。でも、…もし解決しなければ?
辺りは静まり返っていた。
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「いいか、ひな。元の時代とやらに戻りたいのなら
この戦国時代で生き抜く覚悟を決めろ。
貴様は今、一国一城の主なのだ。
貴様の言葉や行動が、そのまま家臣共、はたまた安土の民の原動力となる。
戦は近い。弱気な顔をしていては足元を救われるぞ。」
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信長さま…。
『でも…もし私達の仲間を突然に傷つけるような事があれば…討って出ます。
大切な命を守るため、この美しい安土の町を守るために、力を貸してください。』
そう言うと、ひなは深く頭を下げた。
… … …。
『『『『『『ワーーーーッ!!!』』』』』』
数秒後、木々が揺れるような鬨(かちどき)の声が上がる。
家臣たちが刀や槍を突き上げて、ひなに答えていた。
『…っ!!』
その声に押されるように、ひなは政宗が用意した愛馬の所へ向かう。
(さて…馬って、どうやって乗るんだっけ??)
「…貴様、馬にも乗れんのか。」
また背後から、本家・信長の声がした。
(うぅっ。私の居た時代では乗れなくても別に不思議じゃ無いんですっ!)
ひなが心の中で叫ぶ。
「貴様は俺だ。俺に出来ぬ事はない。思いきって乗ってみろ。」
(そんなこと言われてもっ…ええい、ままよ!!)