第23章 懸崖撒手(けんがいさっしゅ)/前編
私は…。
『もちろん秀吉さん達と出陣します!』
ひなはキッパリと言いきった。
『…信長さまは、そう仰るだろうと思っていました。
では、これを。』
秀吉が差し出したのは、立派な黒い甲冑と兜だった。
『えっ、これ着るの?物凄く重そうなんですけど…。』
『…先程の勢いは何処へ行かれたのですか?』
『信長さまは、身体ひとつで戦場へ行かれるおつもりだったのですね?なんと勇ましい!』
少しズレた三成の褒め言葉を受け、家康が溜め息をついていた。
わかったよ、と言いながら渋々 鎧に袖を通す。
(あれ、重たいけど思ってたよりは動きやすい。)
『それから、こちらも。信長さまの愛刀「宗三左文字(そうざさもんじ)」でございます。』
恭しく三成が差し上げる。
(もちろん本物の刀…だよね。)
こちらも、ずっしりと重い。
なるべく使う場面に出会いませんように…と祈りながら腰にさした。
そのまま家臣たちの待つ城前へ向かうと、政宗が告げる。
『馬は白石鹿毛(しろいしかげ)をご用意しております。お持ちの馬の中では一番 速いでしょう。』
政宗が指差す方向には、毛並みのいい立派な馬が繋がれていた。
『一時の時間も惜しい。信長さま、真夜中になる前にご出立を!』
そう言う秀吉に、うん、と頷くと、ひなは家臣たちに向き直る。
(確か戦の前は「鬨の声(ときのこえ)」っていう掛け声をかけるんだっけ。でも、なんて言えば…。)