第17章 幸村
『俺は行商で暫く安土の城下にいる。女子の好きそうなもん扱ってるから、暇なら買い物にでも来いよ。』
『うん、ありがと。幸村って、口は悪いけど話しやすくて良い奴だね。』
ひなが笑いながら言う。
『うるっせぇ。お前も まーまー可愛い顔してんだから、飯は口で食えよ。』
幸村が、むにっと ひなの頬を掴む。
『ちゃんと口で食べてるよ!』
(この時代に来て、久し振りに思いっきり軽口を交わして笑った気がする。なんか、楽しいな。)
『…幸村、ありがと。』
『あ?からかわれんのが好きなのか?』
意味が解らないという顔で幸村が首をかしげる。
『そうじゃなくて!久し振りに誰かと冗談言い合って笑えて嬉しかったから。』
素直な気持ちを告げる。
『おー。俺で良ければ付き合ってやるよ。おれも…楽しかったし。お前と話すの。』
綺麗に笑う顔にドキッとする。
(こうして見ると、幸村って結構カッコいいんだ…。)
『あ、そうだ!すっかり忘れてたけど俺、信玄さま探してんだったわ。
ひなと話してたら、あっという間に時間がたっちまった。
さっき、暇ならって言ったけど…必ず来いよ。待ってるから。じゃーな!』
くしゃっとひなの頭を撫でると、幸村は風のように走っていく。
ふと振り替えると、
『絶対だぞー!』
と叫んで、町の中に溶けていった。
『もうっ!』
乱れた髪を整えながら、無自覚なイケメンほどタチの悪いものはないな、と思うひなだった。