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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第17章 幸村


『はい、信玄さまも。』

(あっ、甘味のお金…。)

言いかけた時には信玄の姿は人混みに紛れて解らなくなっていた。

代わりに、通りの向こうから人波を掻き分けて、誰かが ひなの方に走って来るのが見えた。

立ち止まり辺りを見回すと何やら叫んでいる。

『お館様!くっそう、何処に消えやがった!』

お館様と言うからには、信玄の部下だろう。

『口が悪いなぁ。』

ボソッと ひなから本音が漏れた。

じろり、とその若い男がひなを見据える。


『あ?お前、今なんか言ったか?』


(やばい、聞こえてた。)

ひなは知らんぷりをして、視線を空に彷徨わせる。

彷徨ったその先に、男の顔もあった。

『わっ!!』

驚いて大きな声を出すと、男も驚いたようだ。

『わっ、じゃねぇ。人の事 化けもんみたいに!』

『さっきまで向こうにいたくせに、急に目の前に現れたらビックリするでしょ!』

負けじとひなも言い返す。

すると男が「ぶはっ!」と吹き出した。

なに!?

ひなの頬っぺたから何かを摘まむと、パクっと口に入れた。

『ん、うま!お前、小豆の菓子 食っただろ?』

(へ、今、私の顔についてた小豆、食べ…た?)

『お前、顔で菓子 食うのかよ!マジでガキかって…。』


腹を抱えて笑っていた男もそれに気付いたのか一瞬 動きが止まる。

暫しの沈黙の後、ボッと顔が赤くなった。

『や、その、これはだな、お前がガキみたいだったから、つい…。』

その焦りようが可笑しくて、『ふふっ!』と今度はひなが吹き出す。

それを見た男も、また笑いだした。

ひとしきり笑った後、

『俺の名前は、幸村。真田幸村って言うんだ。さっきの信玄さまに仕えてる。

あの人、目ぇ離すとすぐ菓子ばっか食うからさ。

見張ってたんだよ。で、お前は?』

(幸村も有名な武将だよね。信玄さまに仕えてるんだ…。)

『私は ひな。訳あって最近、安土に…。』

幸村は特に気にする様子もなく、『ふーん、そっか。』とだけ答えた。
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